めい想のすすめ
インドにこんな昔話があります。
女王があるとき、大切にしていたネックレスをなくしていましまいた。
あちこち捜し回ってもどこにもありません。女王は捜し疲れてとうとう
探すのを諦め、しゃがみこんでしまいましいた。ハッと気がついたのはそ
のときです。何とネックレスは女王の首にずっとあったのです。
『やすらぎ』とはこのようなものです。誰がこの女王のことを笑うこと
ができるでしょうか。私たち現代人も、心のやすらぎを捜し求めて、
あちらこちらとさまよい歩いています。しかし、いくら周囲を見渡して
も、自分の外側の世界に求めている限りは、本当の心のやすらぎを見つ
けることは難しでしょう。
『めい想』は、外側の世界ばかりに向かう目を静かに閉じて、自分の
内面に真のやすらぎを見いだそうとする方法です。
『めい想』は、自分のなかの宇宙にむかう旅です。
空気のようなもの
(その1)
私が住んでいる(平野)は、大阪市の東南のすみにあって、
今なお江戸時代の町割りと歴史の面影を残す落ち着いた町です。
私たち住民が『歴史を生かす町づくり』をテーマに町づくりに
取り組み始めて16年が過ぎました。昭和60年に総合的な町
並み調査をした時に顧問にお迎えしましたのが、京都の景
観論争で有名な京都大字名誉教授・故 西山卯三先生でした。
その時の先生のお言葉が今でも耳に残り、歴史的環境の保
存運動の原点になっています。
「大見出しのデコレーションや、ノポリがあると人びとの目につき、
気が引かれる。しかし人はハタや飾りものの背後にあるそれ
よりもっと手のこんだ建築や町並みについては、見なれてい
るので何とも思わない。町並みは「空気」のようなもの、普段は
あるかないかにも気づかないものだ。しかし、人間が暮らして
いくのに欠かすことのできない大切なものだ。(町並み)が注
意をひくのは、たいていそこに異変がおきる時である。だが
その時は手遅れというのが多い」
(その2)
私事で恐縮ですが、私たち夫婦の仲人をしていただいたご
夫妻は芦屋の山の手で、樹木に囲まれた古い日本家屋に
ひっそりと質素に生活をしておられました。絵かきであるご
主人はちょっと頑固者ですが、パイプがよく似合うダンディー
な人でした。奥さんは、何時行っても「ちょうどあなたがたの
ことを話してたとこなのよ」と言って温かく迎えてくださいました。
奥さんがお菓子を準備している間に、ご主人は豆を挽いて
おいしいコーヒーをたてています。私はそんなご夫妻の中
にいて、ゆったりと時間が流れ、この上もないやすらぎを感
じたことを覚えています。ご主人は10年前に他界され、
3年前奥さんの訃報に接しました。その時、ふと奥さんの言
葉が思い出されました。
「夫婦は〔空気〕のようなもの。お互い居ても邪魔にはなら
ないが、なくてはならないものです」
手で観る
私たちの町に、さまざまな障害を持つ子どもさんたちのグル−プ
があり、そこで開かれた作品展に参加されたお母さんのお話しです。
作品展の中でも特に印象的だったのは、目が不自由な子どもたち
が作った粘土細工の作品でした。子どもたちは作ろうと思う対象を
まず手で触って、その形を粘土に表現していくのですが、その中の
一つに「お母さん」という題の作品がありました。その像は頭や胴
体に比べて手がものすごく大きく、腕も太く、長く作られていまし
た。目の見える者からするとアンパランスな人間の婆ですが、目の
不自由な小さな子どもさんにとっては、いつも自分を世話をしてく
れるお母さんの手は、たいへん温かく、大きく感じられているに違
いありません。お母さんの愛情を体全仏で感じて、素直な心で表現
されたその作品は、見る人々におおいなる感動を与えたと言うこと
です。
このお話しをお伺いしながら気がついたことがあります。目の見
える人は、目が不自由な人に比べて、かえって素直にものごとをと
らえることができない二重のあやまちを犯しているのではないかと
いうことです。一つには、人によく見せたいという気持ちが先に立
つことと、二つ目には、美しいとか醜いとかいう差別の目でついつ
い物をとらえてしまうことです。結局は自分に都合の良いようにし
か、ものごとを見ていなくて真実を見落とし、目に頼っているが故
に、本当に大切な物を「こころで感じる」ことがだんだんできなく
なっているのではないでしょうか。
親や教師は、子どもの能力をともすればテストの点数や偏差値と
いう目に見える結果で判断するが故に、(手塩にかけて)ゆっくり
と愛情をもって育てる心の余裕をなくし、病院へ行っても検査結果
の数字が中心で、お医者さんが直接(手当て)をして診断すること
が少なくなりました。その結果として、子どもたちには(手ごたえ)
のない教育がなされ、医療の面ではもはや昔のような(手厚い)看
護は望めなくなりました。
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